COLUMN

コラム

最近、友人や知人から大学入試に関して同じ質問を多く受ける。「少子化により、これからの大学受験は難しくなくなるのではないか。」と言うのである。こどもの日も近かったので、いろいろ発表されているデータを見て、自分なりに調べてみた。
この約40年間、少子化が着実に進行していて、やはり、その影響は大学入試に大きく及んでいるようだ。「大学受験」、特に進学率が低かった昭和期には、大学進学自体が一部のエリートに限られていた。しかし、現在ではその構造が大きく変わり、大学受験の難易度は全体的に大きく低下しているようである。
まず、18歳人口の推移を見てみた。文部科学省の「学校基本調査」によれば、1983年には約172万人いた18歳人口は、2023年には約110万人まで減少している。これは、約40年間でおよそ64%減少し、大学進学を希望する生徒の絶対数が大きく減ったことになる。一方で、大学の数は1980年に約450校だったものが、2023年には約800校にまで増加していて、入学定員は大きく削減されてはいない。むしろ一部では増加傾向にある。つまり、大学の「供給」はほぼ横ばいまたは拡大傾向。一方、「需要」である受験対象者数は減少しているという、需給バランスの崩れが起きているのである。これはこの間、文部科学省が将来の大学進学率の増加を見越し、新設大学や新学部・学科の増設を認めて来たためでもある。

1980年当時、大学への進学率はおよそ30%、進学するには高い学力と選抜試験の突破が必要であった。しかし2023年には大学進学率は約60%に達し、2人に1人以上が大学に進学する時代となった。しかし、少子化が進み受験人口の減少により、2020年には私立大学のうち約30%が定員割れを起こしており、地方私立大の中には定員の70%にも満たない大学も現れた。これは、多くの大学が定員を満たすことに苦慮していることを示している。結果として入学者選抜の基準を緩和せざるを得ず、合格のハードルを下げる傾向になっている。
また、受験者数や進学率だけでなく、入試制度自体の多様化も大学受験の難易度低下に影響している。従来の一般入試(学力試験)に加え、AO入試(現在は「総合型選抜」)や学校推薦型選抜といった制度が急速に拡大している。2023年度には全入学者の約半数がこうした非学力試験型の選抜で入学している。特に私立大学では、入学者の5割以上が学力試験を伴わない方式での合格となっていて、偏差値競争による「一発勝負」的時代は明らかに後退しつつあるようだ。
ただし、この傾向はすべての大学に当てはまるわけではなく、東京大学をはじめとする一部の難関国公立・私立大学には存在し、倍率も高水準を維持している。したがって、「大学受験の難易度が全体としては低下した。」とは言えるものの、「すべての大学が入りやすくなった。」というわけではない。しかし、全国規模で見れば、多くの大学が「定員割れの回避」に追われており、受験生を選ぶというよりも「受験生に選ばれる」時代に変化しつつある。

今後、少子化はさらに進行する。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、2040年には18歳人口が約82万人にまで減少する。このような中で、大学受験の競争率は一層低下し、「大学に入ること」よりも「大学で何を学ぶか」「どう卒業後のキャリアに結びつけるか。」が重視される時代となるのではないだろうか。
過去40年間のデータを見ると、少子化が大学受験の難易度を確実に低下させてきたことを明確に示している。大学受験の意味合いは「選抜」から「受け入れ」へと変質しつつあり、今後の教育政策や高等教育の在り方も、こうした人口構造の変化を前提に再構築する必要があるのではないかと思う。

出典:
文部科学省「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究」、「私立大学に関する現状等について」、「学校基本調査 年次統計」、「大学等進学者数に関するデータ 関係」
国立社会保障・人口問題研究所「表 11-3 性別高等学校・大学への進学率:1950~2023年」

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