2025.10.10
ボランティア活動を通じて知り合った野球少年たちが、中学生になり硬式のシニアチームで本格的に野球に取り組むようになった。彼らも来年はいよいよ高校生だという。そのうちの一人が、「特待生」として野球の強豪校に進学が決まったと嬉しそうに話してくれた。どこか懐かしさを覚える「特待生」という言葉。しかし、2026年度から始まる「高等学校授業料無償化」とこの「特待生制度」は、今後の私立高校のあり方に大きな影響を及ぼすかもしれないと思った。
「授業料無償化」は単なる教育支援策ではなく、日本の高校教育の構造そのものを変える可能性を秘めている。これまで授業料負担の大きさから公立高校一択を選ばざるを得なかった家庭も、今後は私立高校を現実的な選択肢として検討できるようになる。最大のハードルだった授業料が下がることで、「教育の質」や「進学実績」といった本質的な価値で学校を比較・選択する時代がやって来るのだ。
この変化は、私立高校にとって「受験生層の拡大」というチャンスであると同時に、「選ばれる理由を明確にしなければ淘汰される」というリスクでもある。ここで改めて考えるべきが「特待生制度」のあり方だ。従来の特待生制度は、学費免除によって優秀な生徒を囲い込むことが主な目的だった。しかし授業料が無償化されれば、その経済的インパクトは弱まり、制度そのものの存在意義が問われることになる。
2026年度以降、受験生層の拡大とともに学校間競争は一層激化するだろう。私立高校は、特色あるカリキュラムや探究型教育などを通じて他校との差別化を図る必要がある。教育内容と進路実績を一体として訴求する力が求められ、公立高校も含めた新たな競争環境が生まれるのである。具体的には、(1)特待生制度の再構築、(2)教育内容での差別化、(3)学校ブランドと広報の改革、(4)進路支援・出口戦略の強化など、取り組むべき課題は多い。
今後の高校は、公立・私立を問わず、「授業料が安いから選ばれる」時代から、「価値があるから選ばれる」時代へと移行していくことは間違いない。しかし、無償化の対象は授業料のみであり、入学金や通学費、修学旅行費、部活動費、制服代・カバンなどの費用は依然として家計に負担として残る。だからこそ、「特待生制度」は単なる割引制度ではなく、学校の教育理念を体現する“人材投資制度”へと進化させることが求められるようになると思える。
授業料無償化は、高校選択の可能性を大きく広げる制度である。これからの私立高校は教育の質で勝負する時代を迎え、保護者や生徒は本当に自分に合った学校を選びやすくなる。時代は、“お金”ではなく“価値”で高校を選ぶ方向へと、確実に舵を切りつつある。